『キャブレターについて』

一般にノーマルキャブと言われている物は CVKキャブレター CVはコンスタントバキュームの略で、末尾のKは元々カワサキ車用に開発
された為に付けられた呼称。


CVKキャブレターの特徴

・薄いゴム製のダイヤフラムと一体形成されているピストンを持ちエンジンの負圧によって上下する。
 アクセルの開閉によって負圧をコントロールしバキュームピストンを上下させる仕組み!
 負圧に応じて開度が決まる為、混合気のバランスが良く燃焼効率や燃費も良いが、リニアリティー
 には若干欠ける、しかし最終的なピークパワー強制開閉式と差はない。


レーシングキャブレター

ケイヒンFCR(フラットCRキャブレターの略)
・文字通りフラットなスライドバルブの採用とスロットルバルブの回転部分をベアリング支持としたことにより
 スロットルは軽い、独特のカタカタ音はFCRの特徴でもある。
 加速ポンプも標準装備され、低中速からの加速時の息つき現象を解消している。
 スロットル開度は75度!
 極小開度〜中開〜全開まで、どこででもスムーズかつリニアな反応を示す、レーシングキャブの優等生だ。
 セッティングパーツの豊富さでも群を抜いている。


ケイヒンCRスペシャル
・そのスタイリングから旧車乗りから未だに絶大な支持を得ているレーシングキャブレターの先駆者だ。
 スロットルを開けてから僅かに遅れてゴムで引っ張られるようにエンジンの回転が上昇していくフィーリングは
 CRキャブでしか味わえない。
 比較的リーズナブルな価格も魅力である!
 口径の種類も豊富で、エンジンに合った口径選びがCRキャブの基本。 これを間違うと低速のセッティングが
 決まらないので要注意!
 スロットル開度は90度もあるのにスロットルは重い。 加速ポンプもないので急開時のパワーの付きは今一つ
 だが、何といってもそのスタイリングと、赤で書かれた誇らしげな『CR』の文字がたまらない!


ミクニTMR
・スロットルを開けた瞬間、トラクションが路面をダイレクトにとらえ豪快に加速する。
 パワー感は文句なしのNo.1である!
 加速ポンプも標準装備され、急開した時の笛のような吸気音もTMRの魅力である。
 スロットル開度は70度と3機中最小!
 急閉からの低速立ち上がりで、たまに小さなドン突きがでることがあるが、加速と豪快さではこのTMRが一歩出ている。
 セッティングパーツもわりと豊富である。

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レーシングキャブレターはエンジンにあった口径を選ぶ事が大切である。
下記に車種とそれに合った口径を表にしてみましたので参考までに!

モデル 仕様 FCR TMR CR
ゼファー400 STDエンジン+マフラー 28_ 28_ 26_
排気量10〜15%増大+マフラー 28〜32_ 32_ 26_
ゼファー750 STDエンジン+マフラー 33_ 32_ 29_
排気量10〜15%増大+マフラー 33〜35_ 32〜43_ 29〜31_
ゼファー1100 STDエンジン+マフラー 37〜39_ 36〜38_
排気量10〜15%増大+マフラー 39〜41_ 38〜40_

(注)この表の内容は一般的なデータで絶対ではありません。 詳しくはプロに相談しましょう!

TMRを選ぶ時はFCRより1_小さい口径と把握しておけば良い
口径はエンジンのチューンナップ内容と使用目的を考慮して選びたい。
近い口径で迷ったら、小径を選ぶ方が無難である!
大きい口径の方が、パワーが出ると言う考えは”嘘”で、使いにくく調整しにくいだけである。


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FCRの基本セッティング手順

・キャブレターのセッティングの基本は『下(スロー系)から上(メイン系)へ』進めて行く事が、唯一無二の方法!
 そして一番要となるのがスロー系だ。 アイドリングからの走りだし、峠、街中でもストップアンドゴーを繰り返す、
 このスロー系をしっかりセッティングしておかないと、面白さどころかオートバイ自体おっくうな乗り物になってしまう。
 しかししっかりとセッティングをすれば、これほど快適で面白いものはない!
 メイン系ばかりに気が行きがちだが、実はスロー系が全ての元になっているので納得いくまで詰めてもいい。

@スロー系:エアスクリュー(AS)の戻し回転数を探る 
(注)パイロットスクリューの戻しは全閉から一回転戻しでスタート
(注)しっかり暖機運転してから始めましょう

(ASはスクリュータイプになっている事を前提に書きます、スクリュータイプになってない場合は別途購入をお勧めします)
・戻し回転数をベスト状態より多くする → 混合気が薄くなる (開く程に空気量が多くなるので混合気は薄くなる)
・戻し回転数をベスト状態より少なくする → 混合気が濃くなる (締める程に空気量が少なくなるので混合気は濃くなる)
・主に影響する守備範囲 → アイドリング〜スロットル開度1/4より少し後まで

アイドリング調整で1500回転以上に保つ

                

ASを全気筒同じ方向へ1/4回転ずつ締める、あるいは緩めて
最もエンジンの回転が上がるASの戻し回転数を選ぶ

◎全閉から一回転戻しよりスタートし全気筒一つの戻し回転を試したら一回転戻しに戻し、次の戻し回転を試す。
◎一気筒ずつ探って行くのではなく、全気筒いっぺんに行う。

           

一番エンジンの回転の高まるASの戻し回転数が出たらAへ進む


Aスロー系:エアスクリュー(AS)の戻し回転数を探る 其の二

@で決まったASの戻し回転数は?

           

1・1/4回転以下 スロージェット(SJ)を一つ大きくして@をもう一度(少ないガソリン量に合わせ空気を減らし混合比を保とうとしているた為)
1・1/2〜2・1/4回転 この範囲に収まればBへ進む
2・1/2回転以上 スロージェット(SJ)を一つ小さくして@をもう一度(多いガソリン量に合わせて空気を増やし混合比を保とうとしている為)


Bスロー系:パイロットスクリュー(PS)の調整 
(注)通常はPSの戻し回転数は全閉から一回転戻しでOKです。 シビアに決めたい方はBの調整を行って下さい。
・PSはアイドリング時のガソリンの量を決める部分です、真冬は少しだけPSの戻し回転を多くすると始動性が向上します、真夏はベストの戻し回転数でOK
・PSの戻し回転数を多く → ガソリン量が増える (濃くなる)
・PSの戻し回転数を少なく → ガソリンの量が減る (薄くなる)

安定してアイドリングする範囲内でぎりぎりまで、アイドリング調整で回転数を下げる

           

全気筒PSを一回転戻しから1/4回転締めこむ アイドリングが上がる場合は、再度ぎりぎりまでアイドリングを下げ更に1/4回転締めこむ
全気筒PSを一回転戻しから1/4回転緩める アイドリングが下がる場合は、アイドリング調節でぎりぎりの回転数に戻し、PSを1/4回転緩める

           

この作業を繰り返し最もアイドリング回転の高まるPSの戻し回転数を見つけたらCへ進む


Cスロー系:最終チェック

Bで決まったPSの戻し回転数は?

           

1/2回転以下 SJを一つ小さくし、スロー系@〜Cをやり直し
3/4〜1・1/4回転 この範囲に収まればスロー系は終了Dへ進む
1・1/2回転以上 SJを一つ大きくし、スロー系@〜Cをやり直し


Dジェットニードル(JN):ストレート径の選択 
・ストレート径を太く (刻印の一番右のアルファベットを後半にする) → 混合気が薄くなる
・ストレート径を細く (刻印の一番右のアルファベットを前半にする) → 混合気が濃くなる
・影響する範囲 → スロットル開度1/8より〜1/4より少し後まで
・補足データ参照

止まったままアクセルを1/4開度まであおる スムーズに吹け上がる  →  Eへ進む
・うまく吹け上がらない、ばらつく、黒煙が出る  →  ストレート径をワンランク太くする(濃い為)
・うまく吹け上がらない、エンジンがストールする  →  ストレート径をワンランク細くする
(薄い為)
一番良好なストレート径のJNが決まったら  →  Eへ進む


Eジェットニードル(JN):クリップ段数の設定 or 切り上がりの選択
・クリップ段数は上から勘定します(一番上なら一段目)
・クリップ段数一段目 → 一番混合気が薄い
・クリップ段数七段目 → 一番混合気が濃い
・影響する範囲 → スロットル開度1/4少し手前〜1/2付近が主ですが、3/4辺りまで影響は残る
・補足データ参照

アクセル開度1/2位までで実走してみる スムーズに加速する  →  Fへ進む
・加速時に回転がばらつく、引っかかる  →  クリップ段数を上げる
・加速時にストールする  →  クリップ段数を下げる
・一段目にしてもばらつく  →  (濃すぎ)クリップ段数では追いつかないので
                     切り上がりの番手を薄めに変更するか、ストレート径の
                     番手を太くする。
・七段目にしてもストールする  → 
(薄すぎ) クリップ段数では追いつかないので
                       切り上がりの番手を濃いめ変更するか、ストレート径の
                       番手を細くする。
一番良好な段数が決まったらFへ進む


F
ジェットニードル(JN):テーパー角度の選択 
(通常はテーパー角度(E)or(F)辺りで問題なく走ります)
・刻印五桁の真ん中のアルファベットが後半に行く程に濃くなります
・影響する範囲 → スロットル開度1/4後半〜1/2後半までがメインで影響しますが全開域まで影響は残ります
・補足データ参照

実走しアクセル開度1/4から3/4以上まで
早めに加速してみる
スムーズに力強く加速する  →  Gへ進む
回転上昇の後半で加速が物足りない  →   テーパー角度をワンランク鋭くする(濃くする)
一番良好なテーパー角のJNが決まったら Gへ進む


Gメインジェット(MJ):番手の選択
・影響する範囲 → 主に全開域に大きく影響しますが、スロットル開度1/2辺りから影響し始めて全開まで続きます
・補足データ参照

全開走行でのチェックの為、安全には
十分に配慮し
出来ればシャーシダイナモを
お勧めします!
一番パワー感の出る番手を選ぶ ・真夏にセッティングを行った場合 → 真冬になったら
 5〜10番手上げる
(濃くする)
・真冬にセッティングを行った場合 → 真夏になったら
 5〜10番手下げる
(薄くする)


H実走での最終チェック(症状)

スロットル開度1/4までの間で走行中スロットルオフ時にアフターファイヤーが出る。
・@スロー系:エアースクリュー(AS)の調整が薄い
・Eジェットニードル(JN):クリップ段数の段数が上すぎ(薄い)
スロットル開度1/4までの間で走行中、回転の
上昇中にボコつく、引っかかる。
・@スロー系:エアースクリュー(AS)の調整が濃い
・Eジェットニードル(JN):クリップ段数の段数が下すぎ(濃い)
スロットル開度1/2付近で走行中、回転の
上昇中にボコつく、引っかかる。
・Eジェットニードル(JN):クリップ段数の段数が下すぎ(濃い)
・Gメインジェット(MJ)の番手が大きすぎ(濃い)
・ジェットニードル(JN)とメインジェット(MJ)は影響し合っているがクリップ段数を上げた方が無難
スロットル開度1/2辺りから急加速(急開)すると
エンジンがストール(回転が落ちる)する。
・Eジェットニードル(JN):クリップ段数の段数が上すぎ(薄い)
・Gメインジェット(MJ)の番手が小さすぎ(薄い)
・加速ポンプの噴射タイミングを遅らせる
スロットル開度1/2以上で走行中、アクセルオフ
時やエンブレ時にパンパンとアフターファイヤー
が起きる。
・Gメインジェット(MJ)の番手が小さすぎ(薄い)
・Eジェットニードル(JN):クリップ段数の段数が上すぎ(薄い)
・ジェットニードル(JN)とメインジェット(MJ)は影響し合っているがMJの番手を上げた方が無難
全開走行時に上で伸びない(回転の頭打ち) ・Gメインジェット(MJ)の番手が大きすぎ(濃い)
全開走行時に回転は鋭く上昇するがトルク感が
なく、スピードが伸びない。
・Gメインジェット(MJ)の番手が小さすぎ(薄い)混合気が足りない


補足データ
「ジェットニードル(JN)の種類」
・28パイ〜33パイのスモールボディー用  →  刻印五桁の頭二桁が 「9O」 例 9 O ○ ○ ○
・33パイ〜41パイのラージボディー用  →  刻印五桁の頭二桁が 「OC] 例 O C ○ ○ ○

「ジェットニードル(JN)の刻印の意味」
・刻印三桁目 例 ○ ○ E ○ ○ → テーパー角の番手を意味しています。(アルファベットが後半に行く程に角度が鋭くなり濃くなります)
 JNの守備範囲の中でも中間〜後半に大きく影響しエンジンフィーリングを大きく左右するJNで最も重要な部分です

・刻印五桁目 例 ○ ○ ○ ○ Q → ストレート径の番手を意味しています。(アルファベットが後半に行く程に太くなり薄くなります)
 JNの守備範囲の中でも初期に影響します、停まった状態で吹け上がりが悪い場合はここをチェック

・刻印四桁目 例 ○ ○ ○ M ○ → 切り上がり(ストレート部分の長さ)の番手を意味しています。(アルファベットが後半に行く程に薄くなります)
 JNの守備範囲の中でも中間に影響します、クリップ段数と同じ働きなのでクリップ段数で間に合わない場合に変更

「スロージェット(SJ)の番手の意味」
・数字が大きくなる程に濃くなる・・・・ 例 #45

「メインジェット(MJ)の番手の意味」
・数字が大きくなる程に濃くなる・・・・ 例 #140

「アフターファイヤーが出るのは濃いの?薄いの?」
・薄い場合・・・・ 薄い場合が多いのですが、乾いた音でパンパン鳴ります。
・濃い場合・・・・ 濃い場合は少ないですが、湿った音でボコボコ鳴ります。


「プラグの焼けで判断は正解?」
・有る程度の判断材料としては良いと思います、白い場合は薄く、黒い場合は濃い状態と言えます
 
スロットル開度1/4辺りで調子が悪い・・・ ボコつく場合はプラグは煤けて真っ黒、アフターファイヤーが出る場合は白い
 スロットル開度3/4〜全開で調子が悪い・・・ ボコつく場合はプラグは煤けて真っ黒、アフターファイヤーが出る場合は白い
・上記の症状は新品のプラグを付けて実走行して初めてプラグを確認した時に言えることで、実際にはプラグが真っ黒の状態でも
 プラグを磨かずに、真っ黒のプラグのまま故意に混合気を薄い状態にした場合にもアフターファイヤーが出ます
・調子の悪いスロットル開度が分かったら、プラグを磨いてから調整し実走行して調子を見て、再度プラグ確認すると良いと思います

「スロットルを急開すると回転がストールするが、ゆっくり開けると回転がついてくるのは?」
・完全に薄い症状です、
空気ガソリンでは比重は空気の方が断然軽いです。
 例えば混合気の空気とガソリンの比率が
1対1の状態でスロットルを急開した場合、比重の軽い空気の方が先に吸い込まれて行きます、混合気が急に薄い状態
 になってしまいエンジン回転がストールするのです、ゆっくり開くと比率はあまり変わらないので回転がついてくる訳です。
・こう言う場合は、加速ポンプの噴射タイミングの見直しをする(必要なタイミングで噴射させる)か、混合気を濃くすると改善します。

「夏場と冬場ではなぜセッティングを変えるのか?」
・夏場は気温が上昇し湿気も多いので大気中の酸素の密度が広がります → 冬場と同じ量を吸い込んでも密度が拡散されているので酸素量は少ない
・冬場は気温も下がり湿気も少ないので大気中の酸素の密度が凝縮されます → 夏場と同じ量を吸い込んでも密度が凝縮されているので酸素量は多い
 
上記の理由から夏場はセッティングを薄くし、冬場はセッティングを濃くする必要があるのです
・標高の高低差でも気圧が変わるので、同じ事が言えます、しかし夏場でも冬場でも一度きちりセッティングを決めてしまえばいじるポイントは決まって
 来ますので、そんなに難しくはありません。 シーズン毎のキャブの掃除がてら変更すれば良いのです!
                     


これで一通り終了です。 最後はご自分でとことん乗って、もっと煮詰めてみるとオートバイがもっと好きになると思います!
今回はジェットやスクリューの場所は明記しなかったので、ご自分で確認お願します。

今回、ご紹介した手順は絶対ではありませんので、もっとシビアにセッティングを出したい方はプロにお尋ね下さい。